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名古屋地方裁判所 昭和35年(レ)103号 判決 1961年10月24日

控訴人 土松荘 外一二名

被控訴人 日本不動産株式会社

主文

本件控訴は、いずれもこれを棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。控訴人らと被控訴人間の名古屋簡易裁判所昭和二七年(ユ)第二六五号借地請求調停事件の調停調書の執行力ある正本に基く別紙目録記載の不動産に対する強制執行は、これを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上ならびに法律上の陳述、証拠の提出、援用認否は控訴人ら代理人において、「前記調停事件の記録は、被控訴人に対する執行文付与の際既に前記裁判所において紛失し、存在しなかつたのであるから、右執行文の付与は原本に基ずかずしてなされた違法のものであること明らかであり、その執行力ある正本は当然無効である。」と述べ、証拠として、甲第四号証を提出し、当審における控訴本人村上達雄の供述を援用し、被控訴人代理人において、右甲第四号証の成立を認めたほかは、原判決の事実摘示に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

当裁判所は、次に付加するほかは、原審裁判所認定の事実関係と同一の事実認定をなし(新らたに提出された証拠すなわち、成立に争いのない甲第四号証および当審における控訴本人村上達雄の供述によるも、未だ右認定を動かすに足らない)、その説示するところと同一の理由によつて、同一の結論に到達したので、これをここに引用する。

ところで、控訴人らは、被控訴人に対し付与せられた執行力ある正本は、本件調停事件の一件記録紛失の後、原本が存在しないのに、違法に付与せられたものであるから無効である旨主張するけれども、元来、かような形式上の瑕疵を主張して債務名義の効力を争うのは、いわゆる執行文の付与に対する異議の方法によるべきであつて、実体上の原因によつて当該債務名義の執行力の排除を求める請求に関する異議の訴によるべからざること多言を要せずして明らかであるばかりか、よしや、真実調停調書の原本が滅失したとしても、その正本の残存するかぎりは、その一通を原本と同様に取扱う等の方法を講じ、それに基き執行力ある正本を付与することを得ると解すべきところ(しかして、この場合においては、右の原本に代る正本に民事訴訟法第五百二十四条に所定の記載をなすを相当と解する)、本件においては、執行文付与の当時(そして現在も)右調停事件の当事者に対して送達せられた正本が残存していたこと明白であるから、以上いずれの点よりするも、控訴人の右主張は到底採用するに由ないものと言うべきである。

よつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第一項に則り、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木村直行 松田富士也 篠原曜彦)

目録<省略>

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